work by: Motomi Matsubara(M2)

ミニスタジオ:
収納を考えた家


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「人は誰でも、完璧な片づけを一度でも体験すると、人生がときめくような感覚を覚えます。」*1


少し前のことだが、全世界で「Konmari」旋風が沸き起こった。片付けコンサルタントを称する Konmari こと近藤麻理恵は、合理的な 整頓術と自己啓発的な言葉を組み合わせ、妖精的なカリスマ性によって世界の人々を魅了した。「空間は過去の自分ではなく、未来の自 分のために使うべきだと、私は信じています」*2 と彼女は語る。彼女が提唱する「片付け」は、人間とモノと空間の調停を目指している。

Konmari の片付け術は、スピリチュアルな部分が強調されがちだが、じつは建築計画的でもある。たとえば:

「片づけでやるべきことは大きく分けて、たった二つしかありません。『モノを捨てるかどうか見極めること』と『モノの定位置を決め ること』。この二つができれば、片づけは誰でも完璧にできるのです」*3

「『場所別・部屋別に片付ける』は、片づけをするうえで致命的な誤りなのです。[...]片づけ前の段階では、同じカテゴリーのモノでも 収納場所が二か所以上に分かれているケースが往々にしてあるからです。[...]では、どう片づけたらいいのかというと、それは『モノ別』 に片づけること」*4。

居間には本棚と飾り棚、玄関に納戶、寝室にクローゼット(あるいは押入れ)、キッチンに細やかな収納...一般的に、住宅設計は、「場 所別・部屋別」に収納を用意してきたが、Konmari はそこに疑問符を突きつけている。

「モノに押しつぶされそうになりながら暮らしていく生活の中で、ほんとうの意味での幸せを感じることがはたしてできるかどうか、 胸に手を当てて考えてほしいのです」*5。建築界は、人間と空間の関係に撞着し「モノ」を軽視してきたのではないか?〈建築家の設計 する家は収納が足りない〉という紋切り型の批判を、多くのは建築家は無視し続けてきたのではないだろうか?

設計条件 ・収納への考察を中心として、コンセプチュアルな住宅を設計してください。その際、モノに対してある程度具体的な想像を行って下さ い。たとえば、今住んでいる家や、実家のモノと収納を批判的に検証してみる、とか。その他の方法でも構いません。 ・敷地や家族構成等は自由。面積も自由。新築でもリノベーションでも良い。気軽に考えること。

P.S. ここで収納を「アーカイブズ」と置き換えても良いかもしれない。蓄積されたモノには歴史が宿る。ただし、それは個人的な歴史で あり、(実現することのなかった)空想的な歴史かもしれない。「事実に即していると同時にフィクションであり、公共的であると同時に 私的である」*6---これは、美術史家ハル・フォスターによる「アーカイブ的衝撃」の一節である。フォスターは 21 世紀初頭のアートシ ーンを「アーカイブ的」という言葉で切り取り、その通時性と物質性を強調した。これは共時性と非物質性が氾濫する情報化社会に対す る批判的思考である。「アーカイブは泥臭いまでに物質的、やっかいなまでに断片的であり、そうしたものであるがゆえに、マシンが再処 理するのではなく人間が解釈することを要求する」*7。仮想現実(VR)が拡張する現代において、モノの物理性をどの程度保存すべきか。 このあたりも、建築家にとって、今後重要な課題になるような気がしている。

*1〜*5 近藤麻理恵『 人生がときめく片づけの魔法』サンマーク出版(2010)
*6〜*7 ハル・フォスター、中野勉(訳)「アーカイブ的衝動」Я(アール):金沢21世紀美術館研究紀要、No.6(2016)


ゲストクリティーク:
岩元真明 (九州大学)



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